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§土佐茶のはなし
(発展の経緯と施肥の現状)
高知県農業技術センター 茶業試験場
場長 藤田 祥勝
§環境保全型農業における施肥
Kumamoto Agricultural Research Center
農産園芸研究所 土壌肥料部
部長 久保 研一
高知県農業技術センター 茶業試験場
場長 藤田 祥勝
「土佐茶」は,高知県で生産されている煎茶の総称であり,商品形態は仕上げ加工して庖頭で販売される品もあるが,50%以上は荒茶として静岡方面へ出荷されている(図-1)。生産量は全国の1%に満たないが,生産の歴史は古く,古文書によれば15世紀頃には茶園を所有する寺が有ったことが記されている。特に室町時代以降は,戦国大名等が社交上好んで茶を利用するようになると,生産が奨励されたこともあって,この頃から「土佐茶」として西日本一帯に広く知られるようになった。

我が国では,茶は関東以南の殆ど全地域で栽培されているが,栽培の始まりは12世紀頃僧によって中国から持ち帰った種子が,人為的にあるいは逃生増殖して,全国に拡がった渡来作物であるとされている。
しかし,四国・九州に自生する茶,いわゆる「山茶」は,それが日本個有の種であるか否かは別として,その分布状況からみて少なくとも種子伝来以前から自生していた植物であるとする考えが通説となっている。このことについては,牧野日本植物図鑑(北隆館)にも,「中国並ニ本邦ノ原産ノ常緑灌木」と記載されている。
土佐茶は元来,このように豊富に自生する在来種を利用して作られていた。17世紀頃には茶樹の植付けが奨励されたこともあるが,本格的な栽培ははるか後の大正時代になってからである。写真は現在も残っている自生園である。


また,土佐では古くから「黒製」といわれる茶があり,これは愛媛県の山間部から高知県中山間部にかけて作られていた地茶で,山茶を利用した「釜妙り日干茶」で,現在でも一部で生産されている。明治初期,京都から茶師を招いて指導を受け,この日干茶を緑茶風に改良した「青製」も作られるようになり,輸出品としての価値が高くなるにつれて生産も盛んとなり,地場産品の一つとして重視されたこともあった。
以上のように,高知県では茶生産の歴史は古いが,緑茶のそれは比較的新しく,出発は明治末期静岡県から講師を招くなど積極的に技術者の養成にあたり,徐々に緑茶としての品質と生産量が向上した。また,茶種の導入や栽培の集団化を目指した増産計画の策定などは,昭和になってから始められた。
高知県の茶業が特に活発になったのは,第二次大戦後の昭和30年代で,この頃,県茶業振興計画のもとに,茶園の造成,自主園の改植等により,品種化率は全国一となった。以来,茶は中山間地域の基幹作物として定着した。作業がはなはだ困難な山間傾斜地で,このように茶業が発展してきたのは,自生茶園が存在することでもわかるように,温暖多雨の気象と,四国を東西に走る古成層に由来する土壌条件等が茶の植生にとっては極めて好適なためであろう。

しかし,産地は県下全域に分布しているものの,主産地が形成されているのは,主要河川の中~上流域に多く,とくに仁淀川と四万十川の上流地域に集中している。これは,この地域に競合作物が少ない理由の外に,急峻な地形による局地気象の影響を受けて,とくに良質の生葉が生産されることによるものと考えられている。

栽培地の基盤が整備されるに伴って,製茶技術の向上にも一段と力が入り,先進地に伍すべく製茶工場の近代化が図られるようになった。昭和25年には関西茶業協議会に加入し,同会主催による品評会においては上位入賞することも度々であある。
先述のように高知は茶園が傾斜地に在るため摘採作業ならびに,肥培管理には多大の労力を要するとともに,年間雨量が3,000mmと多く,肥料の損失はきわめて大きい。とくに夏場は地温の上昇に伴って硝酸化成が速く,土壌中の養分濃度は極端に低下することがある。
表-2は代表的産地の作土の分析結果であるが,これをみると,pHが低いこと,交換性石灰・苦士の量も畑地としては概して少ないことがわかる。同じく土壌中の無機態窒素(NO3-N)も,乾土100g当り10mg以下の地点が65%を占めており,溶脱が激しいことがうかがえる。また,土壌中のりん酸・カリが比較的高濃度に保たれているのは,三要素の施用回数が多く,集積するものと考えられる。

このため,最近では養分保持と省力を兼ねて,茶園に対して緩効性肥料を用いた施肥体系の導入が進められている。表-4~5はロングを用いた県内での施肥設計の例である。



土佐茶は,良質の生葉から作られる独特の香の高い一番茶に商品価値が置かれている。県では,今後の課題として土佐茶としての価値を更に高め,仕上げ茶として県外への販路を拡大するために,生茶の特徴を活かした銘柄の統ーを図り,「土佐茶」のブランド化が求められている。


Kumamoto Agricultural Research Center
農産園芸研究所 土壌肥料部
部長 久保 研一
環境にやさしい肥料ということで「ゆっくり効く肥料」が注目されている。堆きゅう肥等の有機物であり,有機質肥料であり,肥効調節型の被覆肥料ということになる。確かに,肥料成分がゆっくり有効化すれば,濃度障害で根がいたむ危険性が少なく,養分の利用率が向上する可能性がある。また,作物の養分吸収パターンに合わせた施肥も考えられる。その結果として,必要最小限のレベルまで施肥を減らすことも目標とされている。
ところで,現場でこれらのことを行おうとする時,いくつか前提条件がある。それは現在の農法で生産された場合と同等以上の収量性と高品質性が維持されること(農家経営の安定性)であり,片や,作業の省力化をあわせて進める必要があること(技術の定着しやすさ)等で,なかなかやっかいな矛盾点を抱えている。ここでは,現場で進められている施肥について問題点を少し整理してみたい。
作物の養分吸収を調べてみると,大方の場合,シグモイド曲線に似たものとなる。そして,栄養生長の盛んな時期や果実肥大期に最大の吸収がおこり,その後成熟期に向かって低下していく。ところが,収穫されるものはすべてが成熟した器官とは限らない。このような観点から,収穫にいたるまでの作物の生育型を類型化すると,これは施肥に関しても重要な意味をもつ。
つまり,模式図(図1)に示す様に,ホウレンソウやレタス等の葉菜類に代表される栄養生長期に収穫を迎える作物は収穫期にも十分な養分の供給を必要とし,トマトやキュウリのように栄養生長と生殖生長が同時に進行する作物では安定した肥効を確保することが重要となる。一方,メロンのように完全に成熟して収穫される作物ではメリハリの効いた施肥管理が必要とされ,収穫期の過剰な養分供給は障害の発生を引き起こしてしまう。

表1は,熊本県におけるいくつかの作物について,窒素施肥量と吸収量を調査した結果である。施肥量が多いか少ないかは作物の種類だけではなく,作型や栽培期間,収量にもよるが,養分の利用率から考えると,施肥量が多いトマト,ナス,ピーマン等の果菜類よりもむしろホウレンソウ,レタス等の葉菜類で問題が多いことがうかがえる。

さらに,もう一つの重要なことは,収量が上がれば上がるほど吸収量は増えるが,養分利用率は逆に低下していくことである(図2)。これまでの多収を得るための技術開発の歴史は養分利用率に関しては目をつぶってきたことに他ならない。そして,この傾向はイネ科作物でよりも根系の貧弱な野菜類で顕著に認められ,施肥法の改良が必要であることを示唆している。

さらに,もう一つの重要なことは,収量が上がれば上がるほど吸収量は増えるが,養分利用率は逆に低下していくことである(図2)。これまでの多収を得るための技術開発の歴史は養分利用率に関しては目をつぶってきたことに他ならない。そして,この傾向はイネ科作物でよりも根系の貧弱な野菜類で顕著に認められ,施肥法の改良が必要であることを示唆している。
以前,有機質が施肥の主流だった時代があり,その頃は化学肥料は金肥と呼ばれていた。この時代の施肥の持つ意味は,作物生産に伴う地力の減退を防ぐために作物残さ,家畜糞尿,人糞尿等を施用する,いわば“消極的施肥”であったと思われるが,生産量の増大にともない金肥の割合が著しく増加した。
近年の有機物施肥を考えると,作物の生産性,品質に対する要求,環境に対する保全義務など,単に昔のように化学肥料を有機物に置き換えることでは解決しない状況になってきており,新しい施肥技術として組み立てる必要が生じている。
現在,使用されている有機質資材には多種多様なものがある。一般に,有機物の分解は高温(高地温)で速く,低温(低地温)でゆるやかに起こるが,各有機質資材の培養試験結果を速度論的に解析し,地温データから無機化窒素量を評価してみると,図3及び表2に示すように,資材間でかなり異なっている。


すなわち,資材中に含まれる窒素の分解は牛糞堆肥やカヤを主原料とする野草堆肥でゆるやかなのに対し,油粕(大豆や菜種)ではすみやかにおこる。さらに,速度論的な解析に用いるパラメーターを比較すると,易分解性窒素量は油粕や肉骨粉で多く,堆きゅう肥で少ない。
また,分解速度は油粕,肉骨粉が速く,魚粕,血粉は中程度,堆きゅう肥は持続型となる。分解の温度依存性については,血粉,骨粉,牛糞堆肥が温度の上昇により分解が促進されるのに比べ,油粕や魚粕は低温でもかなりの分解がおこると推定される。
これらの結果をもとに,牛糞堆肥および菜種油粕から必要な窒素が供給されるとした場合の様子を,実際の栽培現場での施肥,養分吸収と比べて試算してみた(図4)。試算した作物は冬春期のリーフレタス,春キャベツ,秋冬メロン,夏秋トマトである。

リーフレタスは栄養生長型の作物で,図の●で示したように生育前半はかなりゆっくりした窒素吸収で推移し,30日経過した頃から急激に増加する。したがって,この吸収の盛んな時期に無機態窒素の供給を不足させない施肥が肝要である。
牛糞堆肥や菜種油粕のみを用いて施肥した場合もレタスの窒素要求量を上回るが,レタスの根系が生育前半にとりわけ貧弱に経過することから考えると,根に養分を十分供給できる位置への施肥ができるかどうかが鍵となり,工夫の余地がある。現行施肥では,収穫後も14kg/10aの窒素が土壌に残存する計算となり,養分利用率は悪い。
キャベツは栄養生長・生殖生長転換型の結球野菜で結球開始期以降に吸収が増大する。この作型は低温期でもあり有機質資材からの窒素供給も現行施肥法の場合とほぼ同一に経過する。しかし,収穫時での窒素吸収量を賄うことのできる有機質資材量は,牛糞堆肥で40t/10a,菜種油粕で530kg/10aとなり,現実的な量ではない。
この点,土壌からの供給力を十分高めておくとともに,施用有機物の選択やブレンド,あるいは,化学肥料との組み合わせを考えることが現実的かもしれない。
メロンは果実が完全に成熟してから収穫する完全転換型の作物である。窒素施肥は基肥が基本であるが,窒素に敏感に反応するため,元来有機質肥料の使用が多い。メロンは開花・交配期から果実肥大期にかけて急激な養分吸収を示し,成熟後期には窒素はほとんど必要とされない。
窒素の最大吸収時を満足させる有機質資材量は,牛糞堆肥で25t/10a,菜種油粕で490kg/10aと試算され,かなり多い。また,牛糞堆肥では収穫期にも窒素の供給が継続し4kg/10aが収穫後も残存する。菜種油粕では生育初期の供給が著しく多いため,つるぼけ等の窒素過剰障害の危険性がある。
一方,現行の施肥についてみると前半やや供給過剰ではあるが,ほぼ窒素吸収と供給が一致しており,秋冬型の施肥としては問題はないと考えられる。
トマトでは栄養生長と生殖生長が同時に進行していく。そのため,生育時期を通してバランスのよい施肥が重要で,追肥の意義が大きい。有機質資材の場合,基肥として施用するのが殆どで追肥としては使用しにくい点を考えると難しい問題を残している。
有機質資材に対する依存度を高めていく場合,施用量は窒素供給量で決定されることが多いが,窒素のみならず各養分間のバランスを考えることも大切である。ちなみに,堆きゅう肥の多量連用でカリウムを始めとする陽イオン類が土壌に集積している事例が,施設土壌や飼料畑にかぎらず,水田でさえもみられている。
表3及び表4は,それぞれ,作物の養分吸収バランスと有機質資材の養分供給バランスを窒素に対する割合で示したものである。このように各作物にはそれぞれの養分ごとに要求量が異なっており,施肥はその量比に応じて行われるのが望ましい。


しかし,そのバランスは必ずしも有機質資材の供給と一致しない。しかも,有機質資材の窒素肥効は他の養分に比べて劣るから,窒素の有効化量に基づくバランスを計算すると,さらに大きな格差が生じてしまう。このように有機物施用には陽イオン集積の危険性がひそんでいる。
さらに,現場的な問題としては,土作り資材としての堆きゅう肥からの養分供給量が施肥計算に含まれていないため過剰の養分投入となっていることが上げられる。プリンスメロンの異常発酵果は栽培に熱心で収穫目標も高い農家で多く発生した。これらの農家では堆きゅう肥の施用も盛んに行われ,その結果,畜積した有機物が地温の上昇とともに無機化し,メロンの成熟期に供給されたことが障害発生の一因を形成していた。
養分の適量はそれぞれの作物のそれぞれの生育段階で異なり,施肥による供給,堆きゅう肥からの供給,土壌からの無機化など,トータルとしての養分供給量を考えておかなくてはならない。ちなみに,先ほど述べた窒素分解の評価法によると,慣行的な施用量である牛糞堆肥2t/10aと菜種油粕200kg/10a,メロンの窒素施肥量のそれぞれ12%と43%に,また,トマト窒素施肥量のそれぞれ7%と23%に相当する窒素を供給している計算になる。
以上のことから,有機質主体の施肥を行ううえでの留意点をいくつか上げてみると,
1)各種有機質資材をブレンドしたそれぞれの作物専用の資材を作ること,
2)作物によって特に必要とされる窒素の富化やカルシウムの補給など肥効成分の調整は堆肥づくりの中で行い,養分量を正しく評価すること,
3)野菜とイネ科作物など養分要求性の異なる作物をうまく組み合わせること,
などであろうか。
環境保全型施肥で有機物施肥と対をなす考え方は施肥削減であり,効率的な施肥を行うことにより,土壌に投入される養分量を減らし,土壌に対する負荷を低減しようとするものである。確かに,緩効性肥料を用いた根菜類の減肥栽培の実績等が報告されているが,収量を確保し,農家の経営を不安定にしないという条件をクリアーするのは容易ではない。現行の施肥量は目標とする収穫量を達成するために必要な量として,繰り返し栽培した結果決定されているものだからである。
そこで,いくつか施肥削減の方策を考えてみたい。
これは葉菜類等のマルチ栽培で確立された施肥法で,2作物を栽培するのに必要な肥料を肥効調節型肥料等を用いて,1度に施用してしまう方法である。この場合,栽培時期や肥料の種類を考慮すれば,2割から3割減肥しても変わらない収穫が期待できる。
マルチの選定による好適地温の確保は土壌有機物からの窒素発現をうながすとともに,根系の発達を促進するため,効率的な養分吸収と生育をもたらす。特に,低温期の地温確保は効果的である。
肥効調節型被覆肥料の出現により,根域への施肥,育苗ポットや育苗箱への施肥などが可能となった。これらは省力的であるとともに養分の利用効率を上昇させ減肥につながる可能性がある。
今までの1作物についての施肥基準の設定は単作地帯や水稲後の作物には有効であるが,野菜の連作や畑作物との組み合わせでは前作の残肥の影響が異なってくる。土壌診断を活かし,年間の作付け体系を考慮した施肥基準を作ることが重要と考えられる。この場合,肥効調節型肥料では収穫後に溶出する成分についても無駄にならぬように十分考慮されるべきであろう。
環境保全型技術が,1)地力の培養を重視した生産環境づくりに基盤をおき,2)できるだけ過剰の養分供給をおさえた肥培管理で生産するシステムであり,3)ある程度の品質・収量が確保され,4)併せて,作物の健全性・安全性が得られるとすれば,理想の総合技術ということになり,また,非常に当たり前のことでもある。ただ,生産性という論議からは離れてくるのは仕方がない。どこで,折り合いをつけるのかが問題だが,施肥技術という点では,施肥理論を忠実に実践することの重要性には違いがない。